「働きやすく」て「居心地がいい」オンライン組織を作るには 〜Slackカルチャー7ができるまで〜(解説付き)
コルクスタジオでは、先般「オンライン組織の働きやすさと居心地のよさを、slackの活用によってどこまで追求できるのか?」を研究して、仮説検証をしてみました。その様子をご紹介します。
手探りで進めたオンライン組織づくり
コロナ禍の真っ只中にあった2020年7月の、ある日のこと。
クリエイターエージェンシー・コルクの経営陣は、同社の組織のあり方や働き方について議論を交わしていました。Zoomを用いたリモート・ミーティングです。
代表の佐渡島が言います。
「これからはオンラインで仕事する世の中になる。だから、もうオフィスなくしちゃおう」
コルクではもともとフレックス制やリモート打ち合わせを推奨するなど、時間と場所に縛られない働き方を以前から推し進めていました。オンラインベースの組織になることへの抵抗感が少なめなのはたしかです。人の行動が制限される時世にあって、オフィスのあり方を見直すのは自然な流れでした。
ただ、会社組織を完全にオンラインへとシフトする例というのは、当時はもちろんいまもさほど多くありません。
オンラインベースへと完全に舵を切るなら、組織づくりをどう進めればいいのか。イチから考えていかねばなりません。
体制構築の任を担ったのは、コルク執行役員の長谷川でした。
さてどこから手をつければいいか。長谷川はまず知見とアイデアを求めて、プロの意見を伺いに行きました。相談相手は、組織の課題解決をおこなう知識プラットフォーム「リバネス」CKOの井上さんと、CIO吉田さん。
話し合いの中で浮上してきたのは、まずは組織内コミュニケーションの整備が不可欠であるということ。そしてその状態チェックと改善には、コルクが内的コミュニケーションツールとして用いているslackを活用しようということ。
組織内コミュニケーションは、構成員それぞれの持つ情報や技術、アイデアを共有し活動につなげるものであり、クリエイティブ分野を手がける組織ではこの活性化がとりわけ重要です。
ただ、組織内コミュニケーションがうまくいっているかどうかを測るのは難しい。定量的な指標が見当たらないし、活性・減衰要因も多岐にわたるからです。
「コルクリズム」ができました
リバネスとの話し合いを受けて、長谷川はslackを用いた研究を始めることに。日々の業務で生じるslack履歴データと、個人・組織のパフォーマンスを示す関連指標を突き合わせて、効果的な組織内コミュニケーションのあり方を探ってみようというのです。
設定したねらいは、ふたつ。
1. slack上でのコミュニケーション・モニタリングを通じて心身ともに健康な組織をつくる
2. slack上でMVVを浸透させて「コルクで働く」の自分ごと化を促す
です。順に取り組みの内容を見ていきましょう。
まず「1」では、「コルクリズム」の構築を目指します。オンラインベースで業務をし、slackでのコミュニケーションばかりになると、出社・退社といった切れ目がないので、切り替えがしづらくなります。人によって時間の使い方がバラバラとなり、際限なく働いてしまうことも多くなります。コルクではこのせいでワークライフバランスが乱れ、体調を崩す人も実際に見られました。
切れ目がないなら、つくるしかありません。長谷川が打った手は、働く時間を各人が設定し、その時間以外は働かないようにと取り決めることでした。それをモニタリングすることで、仕事時間のメリハリをつけようというのです。自身で決めたオンとオフの切り替えタイミングを「コルクリズム」と名づけ、各人が自分のコルクリズムを見出せるのが理想です。
長谷川はこの取り組みのデータと、組織状態を測定するサービスwevoxの「健康」(「仕事量」「ワークライフバランス」)項目の推移を併せ見て、検証をしてみました。
結果、コルクリズムの設計・モニタリングと、健康(仕事量・ワーク・ライフ・バランス)のスコア推移には、相関がありました。オンライン上で働きやすい組織を構築するうえで、業務時間の自己定義とセルフモニタリングは効果的と言えそうなのでした。
オンライン上でミッション・ビジョン・バリューは浸透させられる?
続いて「2」の課題です。リモートワークばかりになると、対面で仕事をしているときよりも、組織のミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を耳にしたり確認したりする機会が減りそうです。今後リモートワークから仕事を始める新入社員も出てくることから、オンラインでもMVVを浸透させる方策はないか、探りたいのです。
コルクのバリューは、「やりすぎる さらけだす まきこむ」です。さてこれをどうslack上で浸透させるか。
長谷川はまず、連呼してみました。slackに「やりすぎる さらけだす まきこむ」という文言を含むポストを、日々たくさん投げ込んだのです。続いてバリューが書かれたスタンプをつくり、こちらも連打してみました。
が、他のメンバーの反応はイマイチ薄いものでした。バリューを目にする機会は増えたとはいえ、これをもって浸透したとは言い難い結果となりました。
なぜか良くなってきた組織状態
フレーズの連呼やスタンプの連打は、残念ながら、MVVを浸透させるうえで直接の効果が得られませんでした。
ところが、です。コルクでは同時期、組織状態診断サービス「wevox」でもスコアをとっていたところ、MVV浸透のための施策を長谷川がコツコツしていた時期の数値は、かなり改善が見られたのでした。
MVV連呼など個別の施策だけではなかなか効果が現れないにしても、あの手この手を駆使して組織状態改善への働きかけを続けていると、その熱意と意図は確実にメンバーへと伝わり、一人ひとりの意識を変えて組織状態が上向きになるのです。
手数を多くし一定期間継続すれば、Slack上での働きかけは、オンライン組織構築に寄与できるのだと言えそうです。
結果指標としてのslackのデータ活用
上記の実験・検証を経て、更なる「働きやすくて居心地の良い」オンライン組織へとブラッシュアップしていくにあたり、組織への働きかけ・改善施策の実施に対する結果指標としてslack上のデータを活用することが可能ではないか、長谷川はそんな感触を持ちました。
そこで改めて以下の仮説を立て、検証をしてみることに。
仮説1 slack上コミュニケーションの流量が増加すると、組織状態は改善する
仮説2 slack上での投稿数が減少している個人は、ストレスを感じやすくなっている
仮説3 ひとつの投稿のテキストが短くなると、コミュニケーションが活性化し組織状態が改善する
「仮説1」の研究法としては、slack上の特定チャンネルのコミュニケーション流量と、wevoxのスコア推移を、1年間分拾い出してみました。すると、1年でコミュニケーション流量は217%の増加、wevoxスコアは11ポイントの増加という結果に。
コミュニケーション流量増加によって、心理的安全性がビルドアップされ、組織状態全体にいい影響を与えていると考えられます。
「仮説2」は、wevoxのストレス値と、slackの指標の関連を調べます。ストレス値の高い人と低い人、それぞれ数人に対してslackのポスト数やメンション・被メンション数を抽出し比較してみました。
これは数値上の有意な違いが現れませんでした。どうやら、slack上コミュニケーションからストレス状態を予測・観察するのは難しいようです。1on1などを実施するなど、補完する手立てが必要なのだと推測されます。
「仮説3」は、短いテキストによるやりとりが問いと議論の連続する状態を生み、心理的安全性を高く保てると考えてのものです。そこで長谷川自身のslack1投稿あたりの平均文字数を、1年の推移で比較してみました。
意識的に短いテキストにすることを1年間試みた結果、平均文字数が34%減、画面上の見た目からすると文章が3行から2行へと減りました。その1年で全体のslack流量、wevoxの全体スコアは大きくアップしているのです。
これだけが要因ではないかもしれませんが、コミュニケーションハブとなる人間の1投稿あたりのテキストが短くなると、全体のコミュニケーションが活性化し、組織状態も改善すると考えることはできそうです。
まとめ - slackカルチャー7
今回の共同研究によって、カルチャーを作りあげる上でのいくつかの気づきと方法論を獲得することができました。
いったんこの成果を、オンライン組織をよりよくするための「Slackカルチャー7」として以下にまとめました。
ただ、働きやすくて居心地のいいオンライン組織づくりは、まだ緒についたばかり。コルクでは今後も、みずからすすんで実験台となるつもりで、模索を続けていきます。
<slackカルチャー7>
その1:情報流量は増やせば増やすほどいい!
slack上でのコミュニケーションが多いほど、組織の状態も良くなるのが数値でわかった!逆にコミュニケーションが少ないchには注意!
その2:DMは原則禁止!
閉じた場所での1対1のコミュニケーションは、結果的にチームの心理的安全性を下げてしまう!オープンな場所で悩みを相談するからこそ助けやすくなる!
その3:コミュニケーションは…網の目のように張り巡らせる!
縦だけじゃなく横でもメンションし合うことで組織は強くなる!コミュニケーション濃度を観察することで、網の目の状況がわかる!
その4:slackを見ている時間をみてみよう!
オンラインでの働き方はワーク・ライフ・バランスが乱れがち。働く時間を自分で決める「マイタイム」制度を導入しよう!
その5:1投稿あたりの文字数は…少ないほどいい!
長文のやりとりは情報の共有になりやすい!短文のやりとりはその後に対話が続きやすい。対話が続けば、組織のチーミングも進んでいく!
その6:スレッド数は...伸びれば伸びるほど組織が活性化する!
スレッドが伸びていると言うことは、話が弾んでいるという事!話が弾んでいるということは、コミュニケーションが取れているということ!
その7:スタンプは……とにかく押しまくるべし
「反応がある」ことが、組織に心理的安全性を生み出す!スタンプ軽んじるべからず!